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ハリウッドジャック
鞍馬天狗前後篇/鞍馬天狗 恐怖時代
佐藤忠男氏(映画評論家)による解説
かつて日本の無声映画はたいへんにぎやかな音をともなって上映された。弁士が説明の熱弁をふるった。 生演奏の音楽がついた。とくに時代劇では和洋合奏と称して一般の音楽会ではあり得なかった洋楽器と邦楽 器を競わせる演奏をやった。トランペットやバイオリンに三味線や和太鼓が加わったのである。そしてクラ イマックスの、正義の士鞍馬天狗が新選組との戦いに馬で駆けつけるといったような場面では、館内に拍手 喝采の音が鳴りやまないということにもなるのだった。そして休憩には売り子たちが「えーっ、オセンにキ ャラメル」と声をはりあげて煎餅などを売って歩いた。「鞍馬天狗」シリーズは杉作という少年と頼もしい侍 の鞍馬天狗が互いに助け合うということがストーリーの骨子になっているので、子どものファンの拍手はひ ときわ大きかったのである。
鞍馬天狗と称する主人公は勤皇の志士であるが、敵対する幕府方との戦いに、イデオロギーよりもむしろ、 戦い方の正しさを主張するジェントルマンであり、また子どもにやさしいおじさんである。その意味で数多 い時代劇スターたちのなかでも嵐寛寿郎こそが強さとやさしさ、気品と頼もしさをあわせ持っている点でい ちばん鞍馬天狗にぴったりだった。多くのスターがこの役に挑んだが、結局、鞍馬天狗ならアラカン、嵐寛 寿郎の生涯の当り役として語り伝えられている。
鞍馬天狗の好敵手は新選組隊長の近藤勇である。新選組は徳川幕府打倒を策する勤皇の志士たちを弾圧し 圧倒するために特別に編成された幕府側の組織で猛烈な殺人集団だが、滅びゆく幕府側でいちばん勇敢に闘 った戦士たちとして愛惜され、近藤勇は悲壮なヒーローとも思われている。演じる山本礼三郎は単なる悪役 ではない豪放さがあって、嵐寛寿郎に対抗できる名優のひとりだった。
「鞍馬天狗前後篇」と「鞍馬天狗恐怖時代」はともに昭和三年の嵐寛寿郎プロダクション作品。原作は大仏 次郎。流行に追われる大衆小説としては珍しく、原作は長く読み継がれてきている。
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