www.utbhollywood.com
 Japanese  |   English
ハリウッドジャック
折鶴お千/唐人お吉
佐藤忠男氏(映画評論家)による解説
「折鶴お千」は溝口健二監督の1935 年の作品であるが、オリジナル版はサウンド版である。サウンド版と は、無声映画と同じようにセリフは字幕になっているが、音楽と説明が録音されているという変則的なもの で、サイレントからトーキーへの過度期の産物である。日本で最初の成功したトーキーである「マダムと女房」がすでに1931 年に発表されている。「折鶴お千」ははじめサイレントとして作られ、他の殆んどの映画がト ーキーになっている状況ではサイレントでは商売にならないということで、途中でサウンド版に切り換える という無理をしたらしい。今度のこのトーキング・サイレント版は、サウンド版に改めて弁士澤登翠による 映画説明を加えたものである。
 いわばこの映画は、サイレントでもトーキーでもない半端な形で世に出ていたものを、あらためて本来の 弁士の説明つきのサイレントのかたちに戻すものとして、たいへん貴重で有意義な試みと言えよう。実際サ イレントとトーキーでは表現の方法が基本的に違うので、それを商売の都合で途中で変更したサイレント版 には奇妙な印象があって、巨匠の野心的な作品であるにもかかわらず、最初の公開当時に評判にならないま ま忘れられてしまったのはまことに残念である。このトーキング・サイレント版で再評価されることを期待 したい。
 原作は「滝の白糸」と同じ泉鏡花であり、この作家ならではのじつに美しい詩的なセリフがいたるところ に散りばめられている。そのセリフは七五調の韻をふんでいるので、文章として黙読するか曲をつけて詩と して詠いあげればうっとりとできるが、普通に喋ると不自然になる。こういうセリフこそ、独特な調子で詩 のように詠いあげることができる弁士の説明の聞かせどころなのである。サイレント映画でこそ可能だった この語りの魅力を弁士の芸で堪能しようではないか。
 1930 年「唐人お吉」は当時ベストセラーだった十一谷義三郎の小説の映画化である。溝口健二が凝りに 凝って、撮影の都合のために電信柱を切らせようとしたとかいうエピソードが伝説的に伝わっている。この 作品の頃から溝口のリアリズムは徹底的なものになったと言われている。主演は梅村蓉子。溝口健二の初期 の作品の最も重要なスターだった女優である。
UNITED TELEVISION BROADCASTING SYSTEMS,INC. COPYRIGHTS © 2010 UTB ALL RIGHTS RESERVED.
  Supporting music educationthrough Musicians Institute - www.mi.edu